下記の楽器の音はムジカ・レディヴィヴァ社のCD
“Monsieur Arbeau’s School of Dancing”, Vol. I
– 及び Vol. II で聞くことができます。

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中世の理想が種々の異質な音色を混ぜ合わせることだったとしたら、15世紀というのは、その趣向が次第に均質的な音に変わってゆく時代だったといえる。以 前は一種類の大きさだった楽器が、1500年前後には高中低の各音域からなる“ファミリー(属)”を形成し始めた。そして高音、低音の両極に向けて次第に メンバーを増やす一方、多くの新しい“家族”も発明された。Monsieur Arbeau´s School of Dancing Vol. I と同Vol.II には16世紀の最も代表的な楽器の音が録音されている。

ムジカ・アルタ
強い音の楽器グループ

ショームは、大きな音を出すダブル・リードの楽器で、CDでは5つの大きさを使い分けている。先ずVol. I (例えば#1) ではソプラノとアルト。これはオーボエやイングリッシュ・ホルンの先祖に当たる。これより稀なソプラニーノ(夜鳴き蕎麦のチャルメラの親類)やテナー、バ スはVol.II (例えば#11, #22) に録音されている。

他の重要なダブル・リード楽器にドゥルチアンがある。管がU字型に曲がっているので、全体の長さは同音域のショームの半分で済む。Vol. I でも IIでも、アルト、テナー、バスによる演奏を聞くことができる (例えば II:#8)。その内バス・ドゥルチアンは最も頻繁に使われ、今日のファゴットの前身となった。Vol.II (#23) では低音域だけの四重奏で、これより長身の大バスを聞くことができる。

Tromboner

サックバットまたはトロンボーンは、すでに1440年頃にはおおよそ現在の構造が完成されていた。その後まもなく“家族”を形成し、中でも重要なサイズはアルト、テナー、バスである (例えば II: #31)。サックバットはショームやドゥルチアンとよく溶け合うし (I:#1, II:#28)、ツィンクをトップに組み合わせた均質のアンサンブルでもよく活躍する (例えば II:#25)。ツィンクはカップ型吹き口を持つ吹管楽器だが、管は円錐形、多くは木製で、指孔を持ち、音色も木管と金管の中間のような興味深い特質を持っている。

上記の楽器はムジカ・アルタ(強い音の音楽)に属し宮廷でも街の音楽士の間でも戸外や大ホールの演奏に使われた。当時のトランペットは、音楽的に限界があり(倍音でファンファーレを吹く)、社会的には貴族によって儀式や軍楽のみに制約されていた。

ムジカ・バッサ
弱い音の楽器グループ

屋内で少人数を対象とする音楽、ムジカ・バッサの楽器には主としてフルートやリコーダーと共に弦楽器が挙げられる。Vol.II (#4, #20) では、少しだけだが中世からの伝統を引く小型のダイアとニック・ハープに触れることができる。

Lutor

これよりもっと重要な役割を持つルネサンス楽器はリュートで、短いネックで共鳴版の底がまるく、ガット弦(羊腸弦)が張ってある。CDにはソロでも(II:#17) 各種アンサンブルでも(例えば I:#39, II:#16) 紹介されている。マンドーラと呼ばれる超小型のリュート(ソプラニーノ・サイズ)がVol.II (#30) に登場する。また Vol. II では、いわゆるブロークン・コンソートでは、リュート奏者のうち二人がそれぞれ、華やかな音のシタールと暗い音のバンドーラに持ち替えている (#18)。これらふたつの楽器は胴の底が平らで、金属製の弦が張ってある。

擦弦楽器ではヴィオラ・ダ・ガンバに注目しよう。主要サイズのトレブル、テナー、バスの三つは Vol.I (例えば #36) で聞くことができる。 Vol.II では、バス・ガンバがヴァイオリン(#18) やヴィオラヴィオラ (#16) と組み合わされている。ヴァイオリンは16世紀には未だ素朴なフィッドルとしてダンス音楽楽器の地位に甘んじていた。

フルート族は三・四種の大きさがあったが、ここではテナーしか使われていない。このサイズが1600年前後にはフルート・ファミリーの代表格となった (例えば I:#18, II:#13) 。今日使われている普通のフルートが、大きさ、音域、共にこれに相当する。

大家族のリコーダーはここでは六種の大きさ(ソプラノからコントラバスまで)を使用した。とはいえ、同時には三種類以上は使用されていない。純粋のリコーダー四重奏は Vol.I (例えば I:#29, #23) に入っている。

Krumhorn

ウィンド・キャップ

今日の楽器類には類例を見ることができないものがクルムホルンである(ドイツ語 krumm は湾曲の意味)。ズーズーという特殊な音色、音域の狭さ(各9度ずつ)のため、ホール・コンソート(同種の楽器のみで演奏)に最大の効果が現れる (例えば I:#2, #24)。しかし Vol.I (#6) にはコルナムーサ(ク ルムホルンの変種で湾曲せずに真っ直ぐで、ミュートがついている)一本が他のやわらかい音の楽器と一緒に演奏されている。これらの楽器は、ウィンド・ キャップ(風函)と呼ばれる覆いの中にダブル・リードが納められていて、、演奏者の唇が直接リードをコントロールできないため、音に強弱がつけられない。

Vol.II (#16) の一曲にラケット・ファミリーで一番低い音を出す楽器が使われている。リードを直接口にくわえて吹く楽器だが、 構造が一風変わっている。一番大きいサイズでも、外側は高さが35cmぐらいしかない。しかし内側は七つの円筒状の管が上下に走っていて、それを全部つな ぎ合わせるとなんと2m半の長さになる。この小さな楽器は現在、オーケストラで使われるコントラ・ファゴットと同じ低音域に達することができる!

クルムホルン・コンソートに似た音色を持つリード管の小型卓上オルガンをレガールという。Vol.II (#24) ではソロに、また、コルネットやサックバッドの伴奏にも使われている (#6)。

Säckpipa och vevlira

バッグパイプはウィンド・キャップ類の楽器に構造も音色も関係があり、多くのダンス音楽の演奏に田舎風な香りを加えている。同じような効果は弦楽器のハーディ・がーディか らも得られる。バッグパイプはチャンターと呼ばれる旋律管とドローンという通奏管に風袋によって同時に空気を送って音を出す。ハーディ・ガーディも原則的 にはこれに似ていて、旋律弦と通奏弦に接触した木製の円盤をハンドルで回し、その時の摩擦で音を出す。ドローンが間断なく強い音を発するため、この種の楽 器がポリフォニーの洗練された世界から締め出されていったのは当然の結果といえよう。バッグパイプとハーディ・ガーディはVol.I (#3, #15, #21, #27, #31) で顕著な役割をはたしている。

もう一つ、民俗音楽的間隔を伝える楽器にパイプとティンバーが挙げられる(Vol. I :#4 だけ)。この“ワンマン・オーケストラ”は、リコーダーに似ているが指孔が三つしかないフィップル・フルートを片手で操り、もう一方の手で太鼓を打つ。